葬儀相談コラム
第9回 エンディング・ノートを書いてみよう
■9−1 書いた人はたったの6%
終活に便利なツールのエンディング・ノート。「終活」が流行語大賞にノミネートされ、「エンディング・ノート」という映画が上映されたことなどから急速に周知されるようになりました。リサーチバンクが60歳以上の男女約3,500人に調査したところ、約85%の人がエンディング・ノートを知っているか聞いたことがあると答えましたが、書いている人はたったの6%でした(注1)。どうしてなのでしょうか?
実は「自分はまだ死なない」と心の底で思っているので、「自分には必要がない」と考えている人が多いようです。そのような人たちには「エンディング・ノートは決して人生の終末期のことを書くだけのノートではありませんよ」と書き方などをアドバイスします。
また、何冊も持っているのにまだ1ページも書いていない人は「立派過ぎて間違って書いてはいけないと思うと、ペンが止まる」とか、「どれも一長一短でどれに書こうか迷っている」と話されます。せっかく持っているのにナントもったいないことでしょうか。そのような人には、エンディング・ノートは書き直すもの、「どのノートでもいいので、自分が大事と思うことや、書きやすいことから書いてみてください」とアドバイスしています。
(注1)出典:リサーチバンク2014年度調査(60歳以上の全国男女3,494人にアンケート調査)
■9−2 エンディング・ノートはいつでも「書いている途中」
中には今後状況が変化したときのことを心配して、一歩を踏み出せない人もいます。
心変わりをすることを「秋の空」にたとえますが、誰だって気持ちはコロコロと変わります。今は「お葬式は家族だけに見送ってもらえばいい」と考えていても、知人の葬式などに参列すると、「自分もみんなに見送られてあの世に行きたい」と思うかもしれません。
変わるのは気持ちだけではありません。引っ越ししたら住所だって変わりますし、本籍地も変えるかもしれません。
何しろ銀行や証券会社の名前もコロコロと変わる時代ですから、財産のページはもっと変わるかもしれません。
そのような時には書き直せばいいのです。書き直せるように鉛筆で書いてもいいですが、40歳のころはこのように考えていた、と思い返すことも素敵だと思いませんか。書き直す部分に二重線などを引き、空いているスペースに新しく書き、書いた日付を入れるといいでしょう。そのためにも各ページに日付欄のあるノートをお勧めします。
そして、エンディングがくるまで心も状況も変わりますので、エンディング・ノートを書き終わることはないのです。
■9−3 若い人も書いている
エンディング・ノートは終活のための便利なツールではありますが、終活だけに使うのはもったいないツールです。
確かに、10年以上前のエンディング・ノートと言えば、葬儀社が葬式の準備のために作ったものが主流でしたので、対象はシニア層でした。しかし、東日本大震災の後、「いつ何が起きるかわからない」ことを痛感した若い人たちがエンディング・ノートを書くようになり、最近では若い人向けのエンディング・ノートも数多く作られています。
それは「もしもの時、自分が死んだ後のため」ではなく「もしもの時がきても悔いのない人生を送るため」、今の生活を振り返ることで自分のやりたいことを見つけ、真剣に今を生きるためのツールになっているようです。
書き方のセミナーをすると、20代の人が参加される時もあります。
その人たちに「今日のセミナーを聞いて、どの部分から書き始めますか?」と尋ねると「これからの予定を書きます」とか「今までの楽しかったことを書きます」と元気に答えてくれます。
可愛いデザインのノート、備忘録として使えるノート、自分の大事なものを書くページが多いノート、書いていて楽しくなるようなノート、など工夫を凝らしたノートが出版されています。
エンディング・ノートはシニアのもの、と思わずに一度書店をのぞいてみてはいかがでしょう。
■9−4 エンディング・ノートに何を書くの?
多くのエンディング・ノートには、自分を振り返るページがあります。ここを書くことで、子ども時代や若いころを思いだし、自分がやりたかったことに気付くことができるのです。
たとえば、ワールドカップは寝不足になっても応援する、という人。サッカーに夢中だった中高校生時代を思い出すことで、今からではプロの選手になれないけれど、今度は子どもサッカーチームのコーチになる道が見つかるかもしれません。
子どものころの夢、大好きだった歌手やスポーツ選手、学生時代に夢中になっていたことを書いてみませんか?
実はこのページは、意外なところでも役に立つのです。それは認知症になったとき、昔を思い出すことによって脳が活性化され、認知症の進行を遅くする効果があるとのことです。しかし、その時誰があなたの昔のことを知っているのでしょう。このページに書いておくと、介護する人がその当時のことを話題にしてくれるかもしれません。
■9−5 一歩を踏み出してみましょう
この他にも、いろいろあります。
あなたがもし急に倒れて入院したら、大事なペットの世話を誰にお願いしますか。その人はペットの好物を知っていますか。それらを知っているのは、もしかしたら自分だけかもしれません。もし突然入院しても、ノートに書いておけば世話を頼まれた人は助かりますし、自分も安心です。
感謝する気持ちはあっても、面と向かって中々言えない人もいるでしょう。ぜひエンディング・ノートに書いておいてください。「今までありがとう。あなたと暮らして幸せでした。ずっと愛しています」なんて書いていたら、介護にも気持ちがこもりますよね。
もしもの時に友人知人のリストがあればどれほど葬式の連絡が楽になり、遺された人の手間が省けます。葬式をする時に一番困るのが遺影だそうです。故人を思い出すのは遺影の顔、とも言われていますが、お気に入りの写真を貼っておくといいですね。遺影が見つからない場合、免許書の写真を使うこともあるそうですよ。
エンディング・ノートは全部のページを埋める必要はありません。何しろエンディング・ノートは書き終わることのないノートですから、自分が大事と思うところから、書きやすいページから書いていきましょう。大事なのは一歩を踏み出すことです。
執筆:河原正子(CFP認定者)
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