葬儀相談コラム
第22回「尊厳死」
■22-1 尊厳死とは?
回復の見込みがなく、余命あとわずかというときでも、現代の医療技術は、人間を生かし続けることが可能です。人工呼吸器を付けて体内に酸素を送り込んだり、胃に穴を開けて胃瘻(いろう)の装置を身体に付けて栄養を摂取・補給されることができるのです。こうした行為を延命措置と言います。
これらの延命装置は、一度装着すると、はずすことは簡単ではありません。延命装置は生命維持装置です。装置をはずせば死に至ることが明らかであり、医師ははずしたがりません。
「回復の見込みがないのなら、安らかにその時を迎えたい」と思う人は多いのではないでしょうか。それが、尊厳死です。尊厳死とは、回復の見込みがない重篤な疾病のため末期状態にある患者さんが、生命維持装置等による延命のためだけの治療を中止して、人間としての尊厳のもと、生きることに終止符を打つことを言います。
■22-2 尊厳死を宣言する
個人が自己の決定で、尊厳死を宣言することを、尊厳死宣言と呼んでいます。終末期に入院・通院等で医療機関のお世話になったとき、医師の治療の方針や手術におけるさまざまな危険性について、医師から十分に情報収集を行い、それに基づいて本人や家族が治療の選択を行うという自己責任による決定が、最近の終末期医療の主な考え方となっています。
「人生、少しでも長生きしたい」と考える一方で、もし病状が快復の見込みがない末期状態に陥ったときには、見舞う家族に迷惑をかけず、安らかに天寿をまっとうしたいと考える人は多いと思います。そう考えたときに、尊厳死宣言を行うわけです。
尊厳死宣言は、公正証書で行うことができます。これを尊厳死宣言公正証書と言います。尊厳死公正証書とは、本人が自ら尊厳死を望み、自ら延命措置をしないという考えを、公証人役場の公証人の面前で宣言し、公証人がその事実を公正証書として記録するものです。
尊厳死宣言公正証書をつくる際には、家族の了解書と本人、家族の印鑑証明書を添付します。これは、あらかじめ家族とよく話し合って本人の尊厳死の意思を明確にし、家族もその意思を尊重して了解しておくといった意味があります。さらに、尊厳死宣言公正証書があれば、医師も安心して延命措置の中止を行うことができます。
日本尊厳死協会の調査によると、「尊厳死宣言」を示した場合の医師の尊厳死許容率は、平成15年には95.9%、平成16年では95.8%に達したとのことです。
■22-3 尊厳死宣言書を作成する
尊厳死宣言書は、公正証書による作成以外に、自書で残しておくことも可能です。書式や記入要件など定まったルールはありませんが、できるかぎり、自署、日付の記入、押印をしたうえで保管しておきましょう。尊厳死宣言書に盛り込む文面例は次のとおりです。
○私の傷病が不治となり、死期が迫っていることが、担当医を含む複数名の医師により診断されたときには、人間としての尊厳を失うことなく、安らかな死を迎えることができるように、死期を延ばすだけの延命措置はいっさい行わないでください。
○この宣言は、私の精神が健全な状態にあるときにおこなったものです。したがって、私の精神が健全な状態にあるときに私自身が撤回しない限り、その効力が持続するものとします。
また、上記文面に併せて、あらかじめ家族の了承を得て、宣言書に家族の名前と押印を付しておきましょう。
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