●もしものときに亡くなった人の預貯金が引き出せずに葬儀費用の支払いに困ってしまう、というケースが見られます。そこで遺言代用信託を活用すれば、簡便な手続きで迅速にお金を受け取ることができて便利です。 ●145-1 遺言代用信託とは? 日本消費者協会のアンケート調査によると、葬儀にかかる費用の総額は約189万円。一般には、亡くなった人の預貯金の一部をその費用に充てたいものですが、故人の預貯金の払出しのためには、故人の戸籍謄本のほか、相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明書などの書類を提出する必要があります。手続きが終わらなければ預貯金は1円も引き出せません。そのため、書類を揃えるのに時間がかかってしまい、預貯金の払出しが葬儀費用の支払いに間に合わない、といったことがよくあります。煩雑な手続きを行わなくても、葬儀費用程度の資金をすぐに手にする方法があれば安心です。それが遺言代用信託と呼ばれる商品です。 信託という仕組みをご存知でしょうか。信じて託す、と表すように、ある人が信頼できる人に、お金や土地などの財産を移転して、信頼できる人がその財産を管理・処分などをすることでその結果の利益を別の人に与えるという制度のことを言います。 信託商品の中でもっとも身近なものが投資信託です。投資信託は、投資家が証券会社などにお金を預けると、証券会社などが運用会社にお金を預けて運用してもらい、その成果を投資家に分配するという仕組みです。 遺言代用信託は、ある人が取扱金融機関を信頼できる相手としてお金を預けることで、万一その人が亡くなったときに預けていたお金を妻や子など特定の人に渡せるようにするという仕組みです。遺言代用信託にお金を預けておけば、死亡診断書や通帳、印鑑などを揃えるだけで、早い場合は即日にお金を引き出すことができます。つまり、相続の手続きを終えるまでお金を引き出すことができなかった預貯金に比べると、迅速かつ簡便な手続きでお金を手にすることができるわけです。 遺言代用信託の新規利用件数は、平成21年度にはわずか13件に過ぎなかったものが、平成24年度は1.8万件に大幅に増加し、その後も増え続け、平成27年度には13.3万件と急激に件数を伸ばしています。それだけ、人々の遺言代用信託に対するニーズが高いと言えるでしょう。 ●145-2 遺言代用信託の種類と注意点 遺言代用信託にはお金の受け取り方によっていくつかの種類があります。委託した人が亡くなったときにお金を一時金として受け取るのが一時金タイプです。通常はこのタイプで葬儀費用を準備します。一時金タイプ以外には、お金を複数年に渡って受け取る年金タイプがあります。委託した人が亡くなったあと、残された家族の生活費として一定期間お金を残したいときに年金タイプが便利です。さらに、一時金タイプと年金タイプの併用タイプもあります。また、委託する人が亡くなる前に、希望する時期から計画的にお金を受け取ることができるプランもあります。 遺言代用信託には注意点もあります。まず、遺言の代用と言っても、遺言書でしかできないことがある点です。遺言では未成年者の後見人の指定や子の認知などの身分に関する行為の指定が可能ですが、遺言代用信託ではそれらの指定はできません。また、遺言の場合は、内容を変更して書き換えることは可能ですが、遺言代用信託は原則として中途解約ができません。 遺言代用信託を検討する際には、取扱金融機関、主に信託銀行に相談してみましょう。また、最近では地方銀行や信用金庫などでも取扱いが増えてきていますので、利用してみましょう。 |