●親と子等の間で信託契約を結ぶことにより、相続対策を行って遺産相続を円満に行えるというのが家族信託の仕組みです。万が一、認知症などで意思決定ができなくなっても、その前に家族信託を結んでおけば、相続対策は安心して実行できます。相続は終活にとって最大のテーマのひとつ。その解決方法のひとつとして、家族信託を紹介します。 ●141?1 65歳以上の4人に1人は認知症とその予備軍 大切な贈り物であるはずの財産が、かえって家族の争いの種に…。日本はいま、1年間で約50兆円もの遺産が受け継がれていく大相続時代を迎えています。ある日、相続が起きて財産が遺され、家族で分割されることになります。ところが、誰が、何を、どれだけ受け継ぐか、遺産分割で揉めるケースはたいへん多くなっています。実際に、家庭裁判所に持ち込まれる相続関連の相談件数は、10年前の2倍である18万件に達しています。遺産分割で揉めるいわゆる争族は、財産の多寡に限らないとも言われます。では、どうすれば、円満な相続を迎えられるのでしょうか。その対策の一つが、今回ご紹介する家族信託です。 厚生労働省の調査によると、65歳以上で認知症を発生している人は15%、認知症の予備軍と言われる軽度認知障害の人を含めると、4人に1人に達します。夫婦に65歳以上の両親が健在であれば、そのうちの1人は認知症またはその予備軍ということになります。 現在はお元気でも、加齢が進むにつれ認知症をわずらい、自ら意思決定ができなくなることがあります。そうなると、本人の意思決定が必要な相続対策は計画することも実行することもできなくなってしまいます。 たとえば、相続対策として、土地を売ってワンルームマンションを購入し、家賃収入を生活費に充てるといった対策を行うには、契約の当事者として意思決定ができなければなりません。もし認知症などで意思決定ができなくなれば相続対策はできなくなります。他の家族が後見人となっても、資産の組み換えや運用については、後見人には任せられないのです。つまり、相続対策は、健在な元気なうちに進めておかないといけません。そこで活用できるのが家族信託です。 ●141?2 財産の管理や処分の権限を託す制度 家族信託は、たとえば相続の対象となる親と相続財産を受け継ぐ子等の間で、信託契約を結ぶというものです。親は子に財産の管理や処分の権限を託すことで、親は子から給付や分配を受ける仕組みです。子による財産の管理や処分については、通常は親が監視・監督していきます。もし、親が認知症などで監督が難しくなったときは、あらかじめ指定しておいた信託監督人が親の監督を引き継ぐことになります。このような仕組みを活用することによって、親の体調に関係なく、相続対策を実行していくことができるようになります。 家族信託には、さらに財産の継承の順番を付けることができる効果もあります。一般的には、財産の継承は、遺言書を書き記すことで、どの財産をどの人に受け継いでもらいたいかを指定することができます。ところが、この遺言書の方式だと、一度、財産を引き継がせたら、その後の財産の承継者は遺言をした人とは無関係に決められてしまいます。これに対して、家族信託は、たとえば最初に受け継ぐ人を長男、次が二男、その次が三男、というように、遺産の流れを連続して指定することが可能となり、引き継がせたい人に財産を無事に引き継がせることが実現します。 このように、遺産分割の揉め事を防ぐ方法の一つとして、“信じて託せる”家族信託が使えます。また、身体の不自由な家族の定期的な生活費として、「月々一定の金額を相続で渡す」といった内容の信託を行うことも可能です。遺言書では、いつどれくらいの金額を誰に渡すかを指定することはできませんが、家族信託ならそれが可能になるわけです。また、家族信託は、人だけでなく、ペットにも活用できます。自分に万一のとき、残された人にペットの世話を任せたいという場合に使えます。 家族信託を検討する際には、弁護士、司法書士等の専門家に相談してみることをお奨めします。 |