葬儀相談コラム
第105回 認知症に備える
■105-1 認知症高齢者の事故と損害賠償請求
認知症の高齢者が徘徊中に起こした事故で生じた損害賠償について、高齢者を介護する家族が請求を受けるという、衝撃的な裁判例が報じられました。
認知症で徘徊していた男性が電車にはねられ亡くなったという鉄道事故について、鉄道会社が亡くなった認知症の男性の面倒をみていた家族に対して、振替輸送費や人件費等の損害賠償を請求したのです。裁判所は男性の妻に対して約360万円の支払いを命じました(名古屋高裁平成26年4月24日判決)。
通常このような場合、行為をした本人が不法行為の責任を負います。経済的な資力を持たず、金銭的な賠償が困難な場合でも、本人に代わって家族が損害賠償請求を受けることはありません。しかし、行為をした本人が認知症高齢者であれば、法的には「責任無能力者」と判断される可能性があります。民法第713条にある「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く間に他人に損害を与えた者」とされるのです。これが責任無能力の状態です。
責任無能力者の行為は、本人を監督する義務がある者が、本人に代わって損害賠償責任を負うことになるわけです。先に挙げた裁判例では、認知症高齢者に責任能力はなく、同居の妻と別居の長男に、本人に代わって監督義務違反に基づく賠償責任を認める判決が下りました。
本裁判に対しては、認知症の高齢者を介護する家族にとっては厳しい判断との批判がありました。一方、鉄道会社とすれば、どのような理由であれ損害賠償を受けられないとするのは妥当でないとの判例(結論)でした。鉄道事故に限らずその他の事故においても、認知症の高齢者が引き起こした損害について、家族が損害賠償を受ける可能性があるということです。
認知症高齢者を家族にもつ人にとっては、大変考えさせられる出来事です。
■105-2 高齢者の4人に1人は認知症
認知症の人の人口は年々増加しています。厚生労働省によると、平成22年時点で65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症とされています。軽度の認知症の高齢者を含めると65歳以上の4人に1人が認知症です。
人口の高齢化、認知症患者の増加に伴って、交通事故に占める高齢者が被害者となる件数も増加しています。交通死亡事故の50.9%以上が65歳の高齢者といわれます。
最近では、自転車事故など認知症の高齢者が加害者となる事故で高額賠償が発生するケースも見られます。認知症の高齢者を持つ家族にとっては、注意深く介護や看護をしていても、徘徊を完全に防ぐことは難しいというのが実情です。
こうした事故による損害賠償請求に備えるためにも、損害保険の個人賠償責任保険に加入しておくことをおすすめします。
■105-3 個人賠償責任保険
認知症の人が事故で損害を与えた場合に賠償金を家族などの後見人に支払う損害保険が登場しています。自動車保険や火災保険、傷害保険などの損害保険に特約として付ける個人賠償責任保険です。偶然の事故で第三者に損害を与えた場合、相手に支払う賠償金をカバーします。年間の保険料は1,000〜2,000円程度で保険金の上限は1億円程度。契約する本人だけでなく、配偶者や同居の家族らが賠償を求められた場合も補償対象となるのが特徴です。
例えば、認知症高齢者が鉄道の線路内に誤って侵入し車両・交通に損害を与えたり、走行中の自転車と接触して相手に怪我を負わせたりすることで生じる損害に対し、一定の保険金が支払われます。
個人賠償責任保険は、他の損害保険に自動付帯されますので、まずは、ご自身が契約している自動車保険や火災保険に個人賠償責任保険が付帯されているかどうか確認することをおすすめします。契約の内容がよくわからない時は、損害保険会社もしくは保険契約を取り扱っている保険代理店のスタッフにたずねてみましょう。
高齢期の思わぬ事故で生じる損害賠償請求。いざというときに慌てないよう、保険加入でしっかりと準備をしておきましょう。